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定年前に妻と行く九州ふたり旅!別府・湯布院の温泉を1ヶ月かけてのんびり巡ってきた話

公務員という仕事柄、長期休暇というものにはずっと縁がないと思っていた。年次有給休暇は毎年消化しきれないまま流れていき、「いつかゆっくり旅行したい」という言葉だけが年々積み上がっていった。それが今年、まとまった休みを取ることができた。50代も半ばを過ぎ、定年まであと数年というタイミングで、妻と二人でちゃんとした旅をしてみようと決めた。

行き先はすぐに決まった。温泉だ。妻が長年「いつか別府と湯布院をゆっくり回りたい」と言い続けていたのを、私はずっと覚えていた。

普通の旅行なら3泊4日か、せいぜい1週間だろう。でも今回は違う。せっかくまとまった時間が取れたのだから、観光地をスタンプラリーのように回るのではなく、ひとつひとつの場所でゆっくりと時間を過ごしたかった。

別府には100を超える温泉施設があると聞いていた。湯布院も、何度来ても新しい発見があると旅好きの同僚が言っていた。それなら1ヶ月、九州に腰を据えてみようじゃないかと妻に提案すると、「えっ、本当に?」と驚きながらも目を輝かせていた。

移動手段は迷わずレンタカーにした。電車やバスでも回れないことはないが、温泉地というのは点在しているもので、自分たちのペースで「今日はあの山の奥にある温泉に行ってみよう」などと気ままに動けるほうが絶対に楽しい。荷物も多くなるし、何より妻と二人でのんびりドライブしながら旅をするのが、今回の目的のひとつでもあった。

問題は費用だ。1ヶ月のレンタカーとなると、普通に借りたらいくらになるのか。公務員の給料は安定しているとはいえ、決して余裕があるわけではない。旅費全体を抑えるためにも、移動コストはできるだけ下げたかった。

出発の数週間前、夜中にスマートフォンで福岡空港 レンタカー 格安と検索しながら、さまざまな会社の料金を比較していた。大手のレンタカー会社はサービスが充実している分、やはり価格も高い。1ヶ月となると相当な金額になる。

そんな中で目に留まったのが、「業務レンタカー福岡空港店」という名前だった。業務用、という響きが最初は少し気になったが、口コミを読んでいくうちに印象が変わっていった。「長期レンタルが圧倒的に安い」「1ヶ月借りたけど他社と比べ物にならないくらい安かった」という声がいくつも並んでいた。

実際に料金を計算してみると、その差は歴然だった。大手各社と比べて、1ヶ月のトータルコストが大きく違う。これだけ浮けば、別府の名湯に何度でも入れるし、湯布院の宿でちょっといいものを食べることもできる。迷う理由がなかった。

羽田から福岡まで、飛行機はあっという間だった。窓から玄界灘が見えてきた頃、妻が「もうすぐ着くね」と静かに言った。東京での日常から切り離された瞬間が、じわじわと体に染み込んでくる感覚があった。

業務レンタカー福岡空港店のスタッフは、空港まで迎えに来てくれた。荷物をトランクに積み込みながら、「1ヶ月、ゆっくり楽しんできてください」と言われた一言が、妙に心に残った。

受け取った車は清潔で、走行距離はそれなりにあったが、走り心地に問題はなかった。業務用と聞いていたが、旅行で使うには十分すぎるほどだ。ナビをセットして、まず向かったのは別府だった。

福岡から別府まで、高速道路を使えば2時間かからない。別府湾沿いを走り、街に入った瞬間に気づくのは、あちこちから湯気が立ち上っていることだ。まるで街全体が温泉の上に建っているかのような、不思議な光景だった。

滞在中は、地元の人たちが日常的に使う「市営温泉」を中心に巡った。観光客向けの華やかな施設も悪くないが、昔ながらの銭湯のような温泉に200円や300円で入れる幸福感は格別だ。朝のまだ人が少ない時間に、地元のおじいさんたちに混じって湯船に浸かっていると、「ああ、これが旅だな」と思う。

地獄めぐりにも足を運んだ。妻は「海地獄」の鮮やかなコバルトブルーに感動して、何枚も写真を撮っていた。観光地として有名すぎるくらい有名だが、実際に目の前にすると、その非日常感に素直に圧倒される。

レンタカーで旅をしていて一番よかったのは、計画を立てすぎなくてよいことだった。ある朝、宿の窓から由布岳が霞んで見えた。「今日は湯布院に行ってみよう」と妻に言うと、「うん、行こう」と即答だった。電車の時刻を調べる必要も、バスを乗り継ぐ必要もない。荷物を積んでエンジンをかければ、それだけで旅が動き出す。

湯布院は、別府とはまた違う静けさがあった。金鱗湖の湖畔を朝霧の中で歩いたとき、妻が「来てよかった」とぽつりと言った。それだけで、この1ヶ月の旅を計画してよかったと思えた。

由布院の街には個性的な小さな宿が多く、1泊か2泊ずつ宿を変えながら、温泉の質や景色の違いを楽しんだ。レンタカーがあるから、荷物を毎回運ぶ手間も最小限で済む。これが電車とバスの旅だったら、もう少し計画を絞り込まなければならなかっただろう。

短い旅行だと、どうしても「行った場所」を増やすことに意識が向く。でも1ヶ月いると、同じ場所に何度も行くことに抵抗がなくなる。別府の同じ温泉に3回行ったし、気に入った定食屋には4回通った。2回目、3回目になると、店主の顔を覚えてもらえたり、会話が生まれたりする。それが旅に「深さ」を与えてくれる。

妻とも、ゆっくり話す時間がたくさんあった。東京にいると、お互い生活に追われてなかなか腰を据えた会話ができない。でも車の中で、温泉の帰り道で、夕食の後で、二人でいろんなことを話した。子どもたちのこと、定年後の暮らしのこと、どこに住みたいか、何をしたいか。温泉につかりながら話す将来の話は、不思議と前向きになれる。

業務レンタカーを選んで節約できた分は、宿と食事に使った。湯布院の少し値の張る宿に2泊泊まれたし、別府で食べた関鯵の刺身定食も、値段を気にせず注文できた。旅の質というのは、お金をかけた絶対額よりも、優先順位をどこに置くかで決まると実感した。

移動コストを抑えたことで、精神的にも余裕が生まれた。「今日はもう一箇所行っておかないともったいない」という焦りがなく、「今日はここでのんびりしよう」という選択を気兼ねなくできる。それが1ヶ月という旅を本当の意味で豊かにしてくれた一番の理由だったかもしれない。

1ヶ月の滞在を終えて福岡空港でレンタカーを返すとき、妻が「また来たいね」と言った。旅の終わりに「また来たい」と思えるのは、その旅が本当に良かったということだと思う。

別府にはまだ入っていない温泉が山ほどある。湯布院も、季節を変えればまた違う顔を見せてくれるだろう。定年したら、今度はもう少し長く滞在しようかと、すでに次の旅の話をしながら帰りの飛行機に乗った。

温泉の湯が体に染み込むように、九州の時間がゆっくりと心の中に残っている。あの旅は、間違いなく私たち夫婦の50代の、大切な1ページになった。